御船町教育長 上杉 奈緒子
今、子どもの居場所はどこにあるのでしょうか。
子どもたちには、3つの間が必要だと言われます。「時間、空間、仲間」の3つの間のことです。放課後や休みに何も縛られない自由な時間、集まる場所、そして、異学年集団という仲間たちに囲まれている居場所です。
私の子どもの頃の居場所は身近な地域の中にありました。秘密の基地も持っていました。地域の中で遊ぶのも当たり前でした。近くに住んでいる子どもは放課後みんな集まって遊んでいました。そこでは、年長者が年少者を率い、良いことも悪いことも多くの学びがあり、自立の精神を養っていたものです。身の回りには多くの自然体験の場もありました。木の上に基地をつくったり、川で魚釣りをしたり、泳いで流されたりしたこともありました。よく近所のおじさん、おばさんたちに怒られもしたものです。
担任をしていたころには、子どもたちの家を訪ねる地域探検に出かけていました。そこでは、祖父母が心待ちにして、庭の柿ちぎりをさせてくれたり、おやつを作って待っていたりしたものです。途中で、湧き水を飲んだり、魚釣りをしたりしたこともあります。地域を歩いていると、神社や空き地に子どもたちの「秘密の基地」があり、嬉しそうに教えてくれたことを思い出します。そこには、休みの日や放課後に集まって遊ぶためのおもちゃなどが置かれていました。大人の分からない場所につくるのが「秘密の基地」であり、そんな場所を持っている子どもたちは、精神的に健全であるという調査報告もありました。木登りやかくれんぼなど、ちょっとしたスリルも子どもたちにとっての遊びでした。近くには働いている大人の目があり、何かあったときには助けてくれる、叱ってくれる安心安全な場所だったとも言えます。
今、子どもたちの居場所はどこにあるのでしょうか。今の時代、子どもたちは、秘密の基地を情報機器の中につくったのではないでしょうか。スマートフォンという「秘密基地」の中で場をつくり、昼夜問わず時間を制限なく使い、年齢もばらばらの匿名の仲間と話題を共有しています。そこには、危険なこともありスリル満点ではあります。昔の秘密の基地と決定的に違うのは、目に見える関係ではないという危険性です。しかし、子どもたちにとって成長の「秘密の基地」は必要なものです。一つを取り上げたとしても他につくることになるでしょう。
私たち大人にできることは、情報基地の中よりも魅力的な場を提供することであり、本物の体験の方が楽しいと感じてもらうことでしょう。そのためにも、生き生きと生きている大人の姿を見せていかなくてはならないのではないでしょうか。野球の大谷翔平のように、何かに真剣に挑戦している姿は、人を感動させることができます。どんなことでも夢中になれるものをもっている大人は、子どもたちを惹きつけていくのです。
今、PTAや子ども会など、地域の大人たちの関係づくりの場も減っています。子どもたちを見守る大人たちが仲良くなれずして、どうして子どもたちが仲良くなることができるのでしょうか。
これから、私たちはどんな社会の姿を求めていけばいいのでしょうか。子どもたちには、居心地の良い居場所を持ってもらいたいものです。そこでは、のびのびと自分らしさが発揮できるようになってほしいと願います。大人も心地よい居場所をつくっていく必要があるでしょう。誰にとっても安全安心な居場所を持つことは、生きる上で必要不可欠ではないかと考えます。